2016年6月15日水曜日

円はなぜ買われるのか?


マイナス利回りの日本国債が外国人投資家に売れています。

新聞報道によると、「安全」とされる日本国債や円が買われていると説明されています。

本当かどうか調べてみました。


まず国債の利回りがマイナスということは、額面100円の国債を額面よりも高く、例えば101円で購入することになりますから、ふつうの投資家は気が狂っていない限り買うはずのない金融商品です。

その日本国債をなぜ外国人投資家は買っているのでしょう?
なぜ超安全で為替リスクのない米国債を買わないのでしょう?

そのカラクリを、日経新聞が「マイナス金利でも、外国勢にはおいしい日本国債」で説明しています。

まず全般の状況として円の需要よりもドルの需要が多く、しかもドルの供給が絞られていることが背景となっています。

ドル需要が多い理由は、GPIF、郵貯銀行、大手生保などが超低金利の日本国債から外債に投資先を移していることと、国内企業のM&A(海外の会社の買収)が極めて活発なため、盛んに円売りドル買いを行っているためです。

この流れはリーマンショック以降の円高と日銀による国債購入額の拡大による超低金利が背景にあり、今暫くこの状況が続くと見られています。

国内企業による円売りドル買い圧力が強いため、需要と供給の関係および銀行のクレジット(信用度)から、ドルについては通常の利回り(日米金利差)の他にジャパンプレミアムが上乗せされています。

参考
昔々、大蔵省があった頃は「護送船団行政」でしたから、銀行でも生保でも1社たりとも潰さないことを大蔵省が保障していたため、日本の銀行はいわゆるプライムレート(最も信頼性の高い貸出先に適用される低い利率)であるLIBOR(London Interbank Offered Rateロンドン市場で取引しているユーロドルの貸し出しレート)で借り入れできましたが、長銀などの破綻以降は日本の銀行のクレジットが悪くなったため上乗せ金利(ジャパンプレミアム)を払わされているのです。
一方、邦銀はこの取引で余計な利払いはあるものの、期限が来れば借りていたドルを返し円を受け取るので為替リスクからはフリーとなり石橋を渡ることができるのです。


この金利上乗せ分を「ベーシススワップ」といい、クロスカレンシー・ベーシス・スワップ市場を使って取引されています。

参考
クロスカレンシー・ベーシス・スワップ市場での取引の概略は以下のとおりです。
前提として、米国債の利回り(米ドルLIBOR)を5%、日本国債の利回り(円LIBOR)を2%とします。


クロスカレンシー・ベーシス・スワップ市場では通貨の交換(短期の貸借)が行われていますが、その市場に米ドルを提供する投資家は、無リスク資産である米国債の利回り5%かそれ以上のリターンを相手からもらえないと割に合いません。

同様に円を提供する投資家も、日本国債と同じかそれ以上のリターンを期待します。

そこで両者がドルと円を交換(スワップ)する際に相互の利回りを相殺し、ドルを受け取る側が金利差分の3%をドルの提供者に支払います。

これは円とドルの受給がバランスしている場合であり、一方の利回りに上乗せされるスワップ・スプレッドは0%になります。

しかし円とドルの受給状況により0%より大きい利率のスワップ・スプレッドがLIBORに上乗せされます。

それでは現状としてスワップ・スプレッド(ジャパンプレミアム:円・ドル交換の際の上乗せ金利)がどのような関係になっているのか具体例で見てみます。それぞれの利回りは以下のとおりとします。

日本国債 -0.1%
米国債  +1.8%
金利差  +1.9%
金利差+ジャパンプレミアム 1.9%+0.6%=2.5%

外国人投資家は、ドルを貸し円を借り入れて日本国債を買うことで、利回り2.5%が得られるのです。

これは米国債の利回り1.8%より0.7%も儲かることになります。

参考
クロスカレンシー・ベーシス・スワップ市場での取引については、ニッセイ基礎研究所「通貨スワップ市場がもたらす外貨投資インセンティブの非対称性-外貨を保有する投資家にとって円建て資産への投資が魅力的な理由」をご覧ください。


以上は米ドルの場合ですが、豪ドルについても同様の取引が行われています。

豪ドルと円のスワップレート(ベーシススワップ)は108ベーシスポイント(利回り1.08%)もあるので、オーストラリアの投資家は、自国の国債に投資するよりも円を借り入れして日本国債に投資する方がはるかに儲かるのです。

現状として多くの通貨でジャパンプレミアムが上乗せされており、9種類の通貨のスワップレートでは50bp(0.5%)を上回っています。

したがって利回りに飢えた世界中の運用会社、銀行では、日本国債への需要が相当強く、ジャパンプレミアム目的の日本国債買いが大きなトレンドになっているのです。(いずれにしても短期間の鞘取りです。)

参考
Bloomberg「マイナス利回りの日本国債、「魔法」でAAAの豪国債上回る利回りに
Financial Times「マイナス金利を利益に変える錬金術師」2016.9.20(火)

以上より、世界中の投資家は、株式市場が危険だから「安全」な円に逃避しているのではなく、リスクオフの流れの中で「利回りの良い」日本国債が買われているのです。

もしドルの貸し先が「安全=クレジットが高い」ならジャパンプレミアムが上乗せされることはないはずです。

新聞などがもっともらしく書いている、「安全」だから円を買いたいと考えているバカな投資家は世界中探してもいないのです。(ファンドマネージャーがそんなことをしていたら即刻「頸」です。)


 でも時間と共に国内企業の外貨需要も一段落し、為替も円安の流れが出てくると、やがては「日本国債売り」が始まる・・・かも知れません。


私はとっても心配しています。