2011年1月12日水曜日

損切りの哲学と理論(その5)


(図をクリックすれば拡大されます。)

株価にしても債券にしてもその「価格」は変動しています。
価格の変化のグラフを見れば「波」のように見えます。

「波」は通常「規則的」なものと「不規則的」なものが合成されて乱れた波形として観察されます。

この「波」に含まれる「規則的」なものを調べるために「フーリエ解析」(パワースペクトル分析)が使用されています。
(複雑な波も分解すればいくつかの周波数の波の合成として表すことができます。)

つまり「規則的」な変化が分かれば、未来が予測できる!・・・

頭の良い、そして「欲の深い」人はそう考えたのです。

その結果・・・   儲けたのかどうか私は知りません。

ランダム・ウォーカーの私としては、「未来」はだれにも分からないと考えていますから、たぶん儲からないのではと想像しています。

蛇足
最近FXの世界ではシステム売買が流行のようで、データの前提を「正規分布」にするか「べき分布」にするかで議論があるようです。
しかし以下で説明するようにどっちにしろたいした意味はないと私は考えています。

さて、ここでフーリエ解析をとりあげたのは、「儲けるため」ではなく、価格の変動に含まれる「真実」を知るためです。

図にフーリエ解析の結果を示しています。

図1 乱数(正規分布)
図2 日経平均
図3 日経平均と為替(期間を拡大)

まず、グラフの見方については、
横軸には「周波数」をとっています。
数値が100ならば、1年間に100回規則的に繰り返す変化を表しています。

縦軸に「振幅」をとっています。
数値はその周波数の強さ(パワー)を表しています。
振幅が大きいほど繰り返し発生する確率が高くなります。

図1は乱数についてフーリエ解析したもので、どの周波数についても振幅が同程度であり、規則性が見られません。(正規分布)

図2は日経平均についてフーリエ解析したもので、特定の周波数の振幅が突出している部分は見られません。
ただ、乱数の場合に比較し、周波数の増加と共に急速に振幅が減少しています。
この傾向は「べき分布」と言われています。

図1と2の違いについては、乱数は前後の数値に関係がありませんが(無相関)、現実の相場では前日の終値と当日の価格は密接に関係しています。したがって瞬間瞬間(短期間)の変動はランダム(正規分布)となりますが、長期的には前後の価格に関連性があり、イメージとしてはおおきな波が寄せては返すようにゆらいでいる状態と考えられます。

図3は図2の横軸を拡大し、低周波部分を強調し、為替のデータも加えたものです。
為替も株価と同様にべき分布の特徴を示しています。

図3から分かることは次のとおりです。

○株価も為替レートも年に3回以上頻繁に繰り返す変動は振幅が10以下であり、その変動成分は正規分布(乱数)の変動に近く、ランダムな変化と考えられる。

○年に2回以下の低周波域(長期の変動)が主要な成分である。

○全周波数領域において株価の振幅が為替レートの振幅を上回っており、株価は為替(ドル円)よりも振幅が大きい。

以上から
◇株価も為替も半年よりも短い周期(周波数3以上)での変動は規則性がなくランダムである。
したがって、予測は極めて困難であり、この波をうまく乗り越える「余裕」が大切だと言えます。
そのためには、半年以上の期間について2σ以上の変動(特に値下がり)を想定しておくことが必要です。

◇より重要なのは、半年以上の長い周期の変動への対処です。
3年程度の期間について2σ以上の変動を想定しなければなりません。
余裕がないと必要に迫られた「損切り」となり、深刻な資産の減少につながります。

この対策として、買値については3年程度の期間について「底値」+2σ以下とすることで、大きな余裕が得られます。(買える時期をじっと待つことがとても大事なのです。)

私のつぶやき
低周波数の振幅が大きいことから、日々の経済指標による変化で儲けようとするよりは、長期的なファンダメンタルをしっかり分析・予測し、どっしり構えているほうが投資家の姿勢としては最適であり合理的といえるのだと思います。





損切りの哲学と理論(その1

損切りの哲学と理論(その2

損切りの哲学と理論(その3

損切りの哲学と理論(その4

損切りの哲学と理論(その5



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