2016年8月1日月曜日

田中角栄とデモクラシーについて


田中角栄ブームのようです。

たしかに天才的な先見の明があり、人たらしの名人で有り、その一方金権政治によりロッキード事件では懲役4年、追徴金5億円の有罪判決を受けています。

しかし憲政の神様と云われる尾崎行雄(咢堂)にも比すべき、演説の名手であり、議会討論の鬼であり、角栄の議員立法歴にはまさしく議会の子と呼ばれるに相応しい実績が有り、努力してデモクラシーの体現者となったことも事実なのです。

参考
田中角栄は、昭和22年に衆議院に初当選後、10年間に議員立法として25本を成立させ、生涯に42本、その他直接間接に関係した議員立法は100を超えたと云われています。

しかしこのようなデモクラシーの視点から田中角栄の評価を書くマスコミがどこにもいないことは残念な限りです。


田中角栄元首相が平成5年12月16日に永眠し、その半年後に小室直樹氏は「田中角栄の遺言」を上梓しています。

小室氏は「角栄ありてデモクラシーあり、角栄死してデモクラシー亡ぶ。」と嘆き、官僚支配によるこの国の行く末に警告を発しています。

また田中裁判が日本の裁判史に残る最大の汚点であることも詳述しています。

参考
小室直樹氏は東大の法学博士であり、田中裁判は当初より最高裁が深く関与したこと、証拠としては極めて不適切な嘱託尋問を採用したこと、反対尋問をさせない等裁判の「手続」を無視したことなどにより、法律上当然に無罪となるべき人間を有罪とし、しかも最高裁は自らの判断を先送りし、角栄が死ぬのを待つというあってはならない卑怯な姿勢を取ったことを断罪しています。

そして小室直樹氏は、角栄死して日本の三権分立(ぶんりゅう)は死んだと嘆いています。


昨年公職選挙法が改正され、今年の6月19日に満18歳、19歳の人たちが第1回目の投票を実施しました。

彼らが「デモクラシー」について何を教えられ、何を考えて投票したのかとても気になります。

学校教育では「デモクラシー」は民本主義や民主主義という用語だけが教えられ、マスコミも「デモクラシー」とはマスコミが報道の自由と正義を振りかざすことであり、政治家の金と倫理を暴くことだと堅く信じていますから、新に選挙権を得た若者たちの選挙行動は混乱するか反権力一色に染まってしまうのか、とても心配です。

そもそもマスコミを始め日本人は「デモクラシー」=民主主義と誤って理解しています。(広辞苑もそのように書いていますから仕方ないのかも知れませんが。)

デモクラシーの語源は、ギリシャ語のdemos(人民)とkratia(権力)を合成したdemokratiaであり、権力を人民が行使する政治形態が本来の意味するところです。

ですからマスコミが民主主義と正義を振りかざし政治家のスキャンダルなどを面白可笑しく報道することは、単なるバカであり、まして一流紙と言われる全国紙までが書くべきことではありません。

では真のデモクラシーとは何かと言えば、国権の最高機関である国会において国民の代表が討論を尽くし、政策を行うための法律を作る事(人民の権力を法を通じて行使すること(立憲主義))なのです。

したがってデモクラシーにとってマスコミなどは外野席にしか過ぎないのです。

ではなぜ日本のデモクラシーが皮相的になってしまったのか。

たぶんそれはヨーロッパ文明の真似から日本の政治が出発したためではないでしょうか。
鹿鳴館も国会も最初は真似することから始まっています。

方やデモクラシーの老舗イギリスでは、王様と民衆の権力闘争からこの政治形態ができあがったのであり、殺し殺される中から妥協点として今の立憲君主制がつくりあげられてきたのです。

人民と独裁者の権力闘争の歴史は古く、古代ローマでは共和制を打破し皇帝となるためシーザーはルビコン川を渡り、市民たちがルイ16世をギロチンにかけたフランス革命はナポレオンに乗っ取られ、ドイルのワイマール憲法はヒットラーとナチズムを育み、アメリカでは独立の父たちがシーザーの出現をどれほど恐れていたのか、歴史を一瞥すればデモクラシーがとても貴重なものであることが分かります。

アメリカ憲法にはデモクラシーを守るために歴史の教訓を活かし様々な工夫が施されています。
アメリカ大統領が3選を禁止されている理由もここにあります。

日本人は「水と安全はただ」だと思っており、デモクラシーもタダであり、なにもしなくても当然にあるものだ思い込んでいるようです。

嘆かわしいことにマスコミも当然のごとく考えているためか、デモクラシーを守ることよりも政治家は清く正しくあるべきであるなどとバカな考えが跋扈しています。

デモクラシーは歴史的、世界的に見れば極めて希な政治制度であり、壊れやすく、これを維持するには膨大なコスト(血と金)がかかることをまったく理解していません。

デモクラシーの先兵と自負するマスコミは、その本質を理解していないため戦前も現在も国民全体の「空気」を読むことに汲々としています。

戦前、中国戦線において未だ戦闘中にも拘わらず、新聞各紙は事実確認もせず、南京陥落をはやし立て、日本全国が祝勝の空気に覆われてしまうと、我先にこれを囃し立て、戦争への道を推し進める片棒を担いだのです。

戦争はいつの時代も国民の熱狂が引き起こすのです。

そしてマスコミはその国民に媚びを売り、軍と政治を引き返せない道に迷い込ませたのです。

マスコミは国民の「空気」を読むことに汲々としているため、その書くことは皮相的なものとなり、真実を知ることや本質を掘り下げ、国民に耳の痛い話をすることを避け続けて来ました。

戦前にデモクラシーを理解したマスコミがいたなら、国会で浜田国松代議士、齋藤隆夫代議士の反軍演説を擁護する論陣を正々堂々と張り、国民を啓蒙していたことでしょう。

しかし、浜田国松代議士、齋藤隆夫代議士は命をかけてデモクラシーを貫きましたが、新聞社の中に社運をかけ反軍演説を擁護したものはありません。

今になって「戦争反対」は聞いて呆れます。どこにデモクラシーがあるのですか?

新聞社とは、過去においても、現在も風見鶏から一歩も踏み出していないのです。

国家が進むべき方向を国会において討論し、国民に訴え、決することがデモクラシーであり、マスコミはいずれが是か非かを明らかにし、国民に知らしめることがその存在意義なのではないでしょうか。

少なくとも世界の一流紙と言われる新聞は、デモクラシーの擁護者たらんと気概を示しています。

ですから政治家の不倫に目くじらを立てて書きまくることは週刊誌にまかせ、一流紙と言われる新聞はもう少しデモクラシーの本質を理解し矜持を持って報道してもらいたいものです。

  日本の政治家は三流ばかりですが、マスコミや有権者が毒にも薬にもならない「クリーン」な政治家ばかりを欲している限り仕方の無いことで有り、小室氏が嘆いたように日本のデモクラシーは逼塞するばかりです。

金権政治は「悪」であると日本国民は堅く信じているようですが、金権政治とデモクラシーは表裏一体の腐れ縁なのです。

そもそもデモクラシーとは酷い政治形態で有り、至る所に綻びがでるので、繕い繕いなんとか維持して行かざるを得ないものなのです。

金権政治はデモクラシーが続く限りなくならないと腹をくくるしかないのです。

したがって権力者(国民)には清濁併せのむ力量が必要なのです。

そのようにマスコミが言い切ったら大変なことになるのでしょうが、日本のマスコミも世界の一流紙に伍して行こうと思うのなら、そろそろ「空気」を読むことを止めて一皮むけてもよいのではないでしょうか。

政界の大狸の異名を持つ三木武吉は戦後に保守合同を成し遂げ、現在の自由民主党を作った大物政治家ですが、政敵から「借金」があることや、「妾が4人いる」ことなどを批判されたものの、正しくは妾が5人いることを正直に公表し、正妻や妾から憾まれることもなく、有権者もマスコミもそれ以上の追求はしていないのです。

政治家について、へそから下は問わないという良識が日本のマスコミには欠けており、政治家に完璧さを求め過ぎてはいないでしょうか。

お気楽マスコミとしては、倫理に少しでも反する政治家をやり玉に挙げることはたやすいことですし、いかにも正義の味方面ができますから、飯の種としてはおいしいのかも知れませんが、バカであることは間違いないと思います。

 マスコミの良心とはデモクラシーを守ることで有り、政治家の評価は議会での討論と法案作成能力、そして結果責任を問うべきなのです。(民主党政権の失政を真正面から断罪したマスコミを私は寡聞にして知りません。)

この良識を持ってマスコミがデモクラシーを擁護し育まなければ、いったい誰がこのか弱い制度を守って行けるのでしょう。

金権腐敗をマスコミが叩けば叩くほど、デモクラシーは死んでしまいそうです。

ドイツにおいて金権腐敗を徹底的にたたいた結果としてファシズムが台頭しました。

このまま行くと10年後の日本にヒットラーとファシズムが現れないかと、私はとても危惧しています。

一部の人々は「日本国憲法」を守って行けばそんなことにはならないと考えているようですが、世界で最も民主的な憲法とされ、第1条に国民主権を謳ったワイマール憲法のもと、国民の熱狂はヒットラーに全権を委任してしまったのです。

 憲法を議論する場合、「戦争」か「平和」という議論になりがちですが、もういい加減小学生レベルは卒業して、米国のように独裁者とファシズムをいかに防ぎ、どのようにデモクラシーを確保し維持するのかに知恵を絞らなければならないのです。

そのためにはどうしたらよいのか、日本はもう少し世界の歴史に学ぶ必要がありそうです。




投資や家計全般のご相談についてはこちらをご覧ください。