2010年12月11日土曜日

通貨選択型ハイ・イールド債券投信はお勧めか?(その2)

野村米国ハイ・イールド債券投信(通貨選択型)のしくみについて解説します。


2014/12/18
通貨選択型ハイ・イールド債券投信はお勧めか?(号外)



この投信の基本形は、米ドル建てのハイ・イールド債を主要投資対象とする円建ての外国投資信託(ノムラ・ケイマン・ハイ・イールド・ファンド)を投資対象とするファンド・オブ・ファンズ方式で運用されています。
ケイマンとは、カリブ海に浮かぶ英領の島で、タックスヘイブンつまり投資の運用益への課税がない国にペーパーカンパニーを作り節税をしているのです。脱税ではありません。念のため。)

ノムラ・ケイマン・ハイ・イールド・ファンド(マザーファンド)は、野村グループの米国運用会社であるノムラ・コーポレート・リサーチ・アンド・アセット・マネージメント・インク(NCRAM社)が運用しています。

野村米国ハイ・イールド債券投信(通貨選択型)のしくみを解説するポイントは2つです。
○原資産つまり何に投資をしているのか?
○なぜ米ドル以外の通貨を選択するのか?

◇何に投資をしているのか?
NCRAM社は、米国株式市場を通じてハイ・イールド債券、つまり「投資不適格債券」に投資をしています。
ハイイールド債は、ハイリスク・ハイリターンであるため、一般に投資に精通したプロ向きの債券と言われています。
(個人投資家などはソブリン債(国債)に投資するのが一般的です。)
ハイ・イールド債関連の投稿については、こちらを参照してください。

ハイ・イールド債券の内訳は、マンスリーレポートから、
石油・ガス 11.7%
通信 9.4%
ヘルスケア 8.9%
金融 6.7%
公益 6.2%
その他の業種 51.9%
その他の資産  5.0%
となっています。

ハイリスクではあっても、石油・ガスなどのインフラ関連会社は資産を持っているので、倒産しても債権回収が可能な所を選んでいるのかも知れません。

でもデフォルトリスク(倒産確率)は、リーマンショック後14%超にもなりましたから、信託報酬などの手数料等を考慮すると、利回り20%でも安心はできません。

◇なぜ米ドル以外の通貨を選択するのか?
結論から先に言えば、エマージング通貨の先物を買う(デリバティブ取引)ことにより、高金利通貨をディスカウント(割引)価格で買えるので、その分の利益を上乗せしようとする仕組です。
(ですから投資家は、債券投資以外にエマージング通貨のポジションも同時に持っていることになります。)

よく言えば利益倍増のため、そして結果としてリスクも倍増します。

通貨選択型が登場した背景としては、リーマンショック後、先進国の株式や債券の利回りが急低下したため、投信の魅力である配当を高める手段としてハイ・イールド債+高金利エマージング通貨の組み合わせのハイ・ハイ・リスク商品が作られたのです。

このリスク倍増について十分理解がされていませんので、具体例で説明します。

通貨選択型とは「配当金などの利益金は選択した通貨(ブラジルレアル)で支払ってください。」と言う要求になります。

そのためNCRAM社は、ブラジルレアルについて為替の先物予約(為替ヘッジ)をします。

1万米ドルを基準として、現在の為替レートと金利は次のとおりとします。
1万米ドル(金利3%)
1.7万ブラジルレアル(米ドル=1.7ブラジルレアル、金利10%)

1年後にはそれぞれの通貨に金利が付きますから、元利は、
1万米ドル×1.03(元本+金利)=1.03万米ドル
1.7万ブラジルレアル×1.1(元本+金利)=1.87万ブラジルレアル

ここで、先物の為替レートは2通貨の金利差を無くすように決まりますから、次の計算式により算出されます。
1.03万米ドル×【先物の為替レート】=1.87万ブラジルレアル

したがって、先物の為替レートは、
先物の為替レート=1.87÷1.03=1.82
1米ドル=1.82ブラジルレアル
となります。

現在のレートが1.7ですから、先物の為替レート1.82はブラジルレアル安(ディスカウント)で買えることになります。
(1.82÷1.7=1.07ですから、金利差分の7%がブラジルレアルを受け取るときにプレミアムとして上乗せされることになります。)

1ブラジルレアル=50円、1米ドル=84円 とすると、
1.82万ブラジルレアル=91万円
1.03万米ドル=86.5万円
通貨選択により4.5万円得したことになります。

しかしこの時に、もし為替レートが円高となっていたら・・・
1米ドル=ブラジルレアル=80円 とすると、
1.82万ブラジルレアル=72.8万円
1.03米ドル=82.4万円

米ドルに対するブラジルレアル安により約14万円の差損
米ドルに対する円高により約4万円の為替差損
合計18万円の為替差損となります。

したがって、7%の金利があってもこの場合は為替差損でその利益がふっとんでしまうことになります。
(このような状況では、ジャンク債のデフォルト率もアップすると思われますが考慮はしていません。)

通常「為替ヘッジ」は自国通貨の受取を先物予約により確定するため、つまりは為替変動の影響を無くすために使われますが、「通貨選択型」においては第3国通貨を選択することで、積極的に為替リスクを取って、高金利を得ようとするものです。
(この投信の購入者は、自覚がないかも知れませんが、ジャンク債に投資するのと同時に、レバレッジのない(1倍)のFX取引(米ドル売り&ブラジルレアル買い)をしているのと同じことになります。そしてこの取引によりスワップポイントを稼いでいるのです。)

為替ヘッジの仕組みについては、こちらをご覧ください。

為替予約をしていると言うことは、投資家は投資額と同額のエマージング通貨のポジションを持っていることになります。
エマージング通貨の特徴は、高い成長性と脆弱な経済基盤です。

新興国通貨について自己ポジションを持っている限りは、この両方について十分把握することが大切です。

◇ハイ・イールド債券投信(通貨選択型)に対するFPとしての評価

投資不適格の債券に投資し、しかも信用リスクが高くかつ流動性が低いエマージング通貨のポジションと為替変動の3重のリスクをはたして素人の投資家が取るべきなのかどうか、少し常軌を逸しているのではないかと私は考えます。

たしかに、現状では驚異的なリターンが得られていますが、驚異的なリスクを言う人がいないので、私が大きな声で「危険だ~~!」と言うことにします。

この投信を買った人は、ブラジルがつい17年ほど前(1993年)に2500%の超インフレ(1年で物価が25倍)があり、当時の通貨クルゼイロは、通貨としての価値がなくなり、紙幣を数えるのではなく「重さ」で取引され、まさに「紙くず」となったことを知っているのでしょうか。

ブラジルレアルは1994年に発行されていますが、1レアルは2兆7500億クルゼイロに換算されました。
(結局それ以前にブラジルに投資していた人の債券は踏み倒されたのです。)

したがって、ブラジルには「前科」があるために高金利でしか世界の投資家は出資しないのです。
ブラジルレアルがまた「紙くず」となるかも知れないからです。

実際1999年8月にはブラジルレアルの為替レートが80%も暴落し、デフォルト(債務不履行)の危機となりましたが、IMFの緊急支援により急場を凌ぐことができた事実があります。


ブラジルは南半球の新興国では最大のGNPを誇りますが、南アフリカの政策金利が5.5%なのに、なぜブラジルの政策金利が10.75%もあるのか、経済の「過熱」によるものなのか、「悪性インフレ」なのか今は慎重な判断が必要ではないでしょうか。

最後にFPとしてのつぶやきですが、勉強しない、リスクを理解できない日本の投資家を高金利で釣るのはいかがなものかと案じています。


参考1
2011年 6月 25日付 WALL  STREET  JOURNAL より抜粋
「弱気のアナリストは、株式の益回りとジャンク債の利回りを比較した場合、現在、株式に軍配が上がると指摘する。また専門家は、過去1年間でジャンク債はかなり上昇しており(ジャンク債ファンドは過去1年で17%近く上昇した)、調整の観点から利食い売りが出てもおかしくはないと言う。 実際、多くの投資家が利食い売りに動いている。ジャンク債に投資するミューチュアルファンドの資金流出額は、6月初めの1週間で16億ドルに達し、約1年ぶりの高水準となった。」
参考3

野村AMの「野村 新米国ハイ・イールド債券(レアル)毎月」など3本、9月分配金を引き下げ 2012/09/20 08:12  提供:モーニングスター社
 野村アセットマネジメントは9月18日、「野村 新米国ハイ・イールド債券(レアル)毎月」の9月分配金(第39期)を130円(1万口当たり、税引き前)に引き下げた。8月の分配金は150円(同)だった。米国ハイ・イールド債(BBからB格)の利回りは当ファンド設定時の月末の2009年5月末の11.6%から2012年8月末には5.8%に低下し、利回り低下は債券価格の上昇となったものの、インカムゲインが低下した。加えて、2011年7月以降は円高・ブラジルレアル安が進んだことが影響した。
 このほか、「野村 新米国ハイ・イールド債券(ランド)毎月」も8月の140円(同)から9月分配金(第39期)を100円(同)に、「野村 新米国ハイ・イールド債券(円)毎月」も8月の80円(同)から9月分配金(第39期)を70円(同)にそれぞれ引き下げている。


参考2

通貨選択型ハイ・イールド債券投信はお勧めか?(その1)

通貨選択型ハイ・イールド債券投信はお勧めか?(その3)

ブラジルレアルに興味のある方へ

高金利通貨に興味のある方へ(その1)

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