2017年5月11日木曜日

国民年金、厚生年金の研究(その3)


GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用状況とキャッシュフロー

GPIFが今運用している145兆円は国民年金、厚生年金の被保険者であるあなたのものであり、将来あなたが貰う権利のあるお金です。

ここでは、そのあなたのお金がどのように扱われているのか、正しくお伝えしたいと思います。


国民年金や厚生年金などのしくみについては、その1、その2で概要を記しました。

日本の年金制度は賦課方式であり、1年間に被保険者から集めた保険料(約36.4兆円)がその年の年金(約45兆円)として受給者に給付されています。

しかし集めた保険料だけでは少し足りないので税金(一般会計)から約11兆円が補填(国庫負担)されています。(日本年金機構の事務経費2769億円を含む)

保険料と年金額の差額は毎年変動するため、一般会計から補填される国庫負担金は余裕を見て多めに計画されおり、年金特別会計の決算の結果黒字となった場合(剰余金が出た場合)は、将来の年金給付に充てるため、それぞれの勘定別に積立られるしくみとなっています。

この積立金については2種類あり、1つは年金特別会計の中で経理される積立金(短期運用)と、もう一つはGPIFに寄託し長期で運用される積立金です。

短期運用される積立金の運用目的は、単年度内の資金繰り上必要な資金であり、保険料収入等の収納と給付費等の支払いの時点にずれがあることから、一時的に資金が不足する状況に対応するために利用されています。(この積立金は平成27年度末で約8兆円ぐらいあります。)

GPIFに寄託し長期で運用される積立金(あなたのお金)は、平成28年度末現在約145兆円(国の税収の約3年分)あります。

参考
年金積立金をGPIFに寄託する根拠は、厚生年金保険法第七十九条の三(積立金の運用)及び国民年金法第七十六条(積立金の運用)となっています。

このように膨大な金額に積み上がった理由は、日本の年金制度は発足以来半世紀以上が経過しており、この間被保険者数(保険料を払う人)が多く、年金受給者数(年金を貰う人)が少なかったため、毎年剰余金があり、そしてそれを運用し増やしてきた成果と言えます。

この積立金145兆円は、今の若い人たちが将来高齢化したときに年金として給付するための財源の一部となります。(そうですあなたが貰えるのです。)

参考
例えば現在の被保険者総数6,729万人でこの145兆円を山分けしたら、一人当たり約215万円になります。保険料を払い始めたばかりの人の額を減らし、定年間近の人の額を増やすと、高齢者には約430万円ぐらい支払えそうです。(国民年金の人はこの金額が減り、厚生年金の人はもっと増えます。) でも山分けするより引き続きGPIFに運用してもらったら、24年後には倍ぐらいになりますから、私ならこちらを選びます。

そこで被保険者(若い人)も年金受給者(高齢者)も自分が貰う権利のある約145兆円ですから、これを預けているGPIFについては真剣に学んでおく必要があります。

GPIFが「損した」ことしか書かないアホ評論家などの言っていることを聞いても、では「国民としてはどう判断したらよいのか」という根本的な疑問の解決にはなりません。

評論家氏は、まさか旧大蔵省資金運用部がしていたように国債と財投債だけでよいと考えているのではないでしょうね。(もし現在そのように運用していたら、積立金はまったく増えていなかったことでしょう。)

いずれにしても世界中のSWF(Sovereign Wealth Funds:政府系ファンド)や年金基金と比較し、GPIFが過度のリスクを取っているとは言えないと私は考えます。

現状としてGPIFは、寄託された積立金について世界中に広く分散投資し、リスクを抑えつつ長期で高いリターンを得る最善策を実行していると私は考えています。

リスクが高すぎるなどと小姑どもがいろいろ騒いでいますが、投資は儲けてなんぼの世界ですから、GPIFについては現在の方針どおり、どんどん儲けてもらいたいと思います。


それではGPIFの運用状況とキャッシュフローがどうなっているのか・・・

とりあえず
すごいですねー

平成28年度までのGPIFの運用実績は本当にびっくりします。
昨年1年間では約8兆円も稼いでいます。運用利回りは5.86%、まさしくV字回復。

参考
8兆円の稼ぎがいかにすごいか。
平成28年度の貿易収支は6年ぶりに黒字となりましたが、黒字額は僅か4兆円。
もはや日本は貿易立国ではありません。国家も株式会社もそして個人も投資で利益を得ることがあたりまえとなっているのです。

市場運用開始(平成13年度)以降では、トータル約53.4兆円(1年間の税収と同額)を稼ぎ、平均利回り2.89%(実質利回り2.80%)。(当初期間は財投債の割合が多いため、市場運用部分のみでは3%以上の利回りとなっているものと考えられます。)
                    GPIF Home Pageより

参考
GPIFに課せられたノルマ(財政計算上の前提)では利回り0.19%ですから、実質利回り2.80%は優秀な成績と言えそうです。GPIFが発足したのは平成18年ですから、これ以降で集計すると実質利回りは3.12%となります。

また145兆円を運用している割りにはGPIFの運用コスト(管理運用委託手数料)はべらぼーに格安であり、1年間で400億円しか使っていません。

これは運用額の0.03%であり、海外の公的年金の運用コスト0.2%と比較しても約1/7の安さになっています。

ちなみにETFの信託報酬の最安値が0.04%ぐらいですから、これよりも25%安いと言えます。

もしかしてGPIFはバンガードよりも優秀かもね。

注意
世の習いで機関投資家が株式投資をしていると「スチュワードシップ(責任ある機関投資家の行動原理)」「ESG投資」「ROE投資」などの手間暇のかかる業務が増大します。GPIFでも真剣にこれらの業務に取り組み始めると人件費が嵩み、すぐに運用コストが海外の公的年金並になってしまいそうです。

年間のリターンが8兆円ですから、旧大蔵省資金運用部や旧年金資金運用基金などが国債や儲かりもしない政府機関などの財投債に投資していた頃にくらべると隔世の感があります。(このような運用を前提としているのが財政計算上の前提利回り0.19%なのです。)

GPIFが今後もこんなに稼いでくれたら、本当に100年安心できる年金制度になるのかも知れませんね。

平成27年度に5.3兆円の損失を出しましたが、投資には当然リスクがありますから仕方の無いことであり、だからと言って得意げにGPIFを叩くマスコミやエコノミストはアホなだけで、GPIFの運用を総じて見れば「good job !」と言ってよいのではないでしょうか。

参考
「平成28年度業務概況書」より、ベンチマークに対する超過収益率は、+0.20%(アクティブ運用+2.61%、パッシブ運用−0.04%)となっています。単年度とは言え、世界最大の機関投資家がベンチマークを上回る成績をたたき出しているのですから驚きです。ということは世の中の投資信託は屑ばっかりと言えそうです。(年金保険や投資信託を買っている人たちにぜひアドバイスしたいことは、そんなものに投資するよりも「まずは国民年金保険料を払いましょう」ということです。)


このようにがっぽり稼いでいるGPIFですが、稼いだお金がどう使われているのか?

基本的な経理については、次のように規定されています。

「年金積立金管理運用独立行政法人法第25条及び年金積立金管理運用独立行政法人法施行令第9条において、年度末に利益剰余金がある時は、年金特別会計の執行状況を勘案して国庫納付する。」

つまり今のところ、GPIFががっぽり儲けたら、年金特別会計が赤字のときには国庫に納付しなさいと義務づけられています。(年金特別会計が黒字なら再投資となります。)

国庫納付に関する試算として、投稿その1でGPIFが運用している年金積立金を今後100年間で取り崩した場合、毎年5.6兆円と見積りました。

しかし年金積立金の本格的な取り崩しは20年ぐらい先と考えられています。
                     GPIF「平成28年度業務概況書」より

このグラフは、今後100年間の年金特別会計のキャッシュフローを予測したものです。

2025年までは保険料と国庫負担(税金)だけでは年金特別会計が赤字となるため、GPIFから国庫納付が期待されていますが、その後は保険料収入が増加する(黒字化する)ため国庫納付は一旦お休みし、年金積立金の本格的な取り崩しは2035年からとなるようです。(平成26年財政検証)

参考
年金積立金が元本145兆円のままとして、年率3%で運用すると20年後には254兆円となります。もし2035年の時点で年金積立金が254兆円(元本)あったと仮定すると、2110年に残額100兆円を確保しつつ75年間毎年取り崩した場合、GPIFは毎年9.4兆円を国庫に納付できます。(利回りは3%として試算)

さて平成28年度の年金特別会計は黒字でしたがGPIFから国庫に2,907億円が納付されています。

年金特別会計は黒字でしたから、年金特別会計からGPIFに剰余金として2.6兆円が寄託されています。

剰余金が2.6兆円もあるのに納付金をなぜ取るのかよく分からないのですが、多分平成27年度にGPIFが損失を出したので予定額の納付ができなかったため、つじつま合わせとして申し訳程度の額を納付させたのかも知れません。

あるいは日本年金機構の運営費交付金2,769億円を肩代わりさせたのかも知れません。

注意
日本年金機構法第四十四条には日本年金機構の業務に要する費用は政府が税金を投入することになっていますから、GPIFからの納付金は被保険者のお金を運用した成果であり政府のお金ではないので、国庫負担の肩代わりとしていたら筋違いなのでは?

国庫納付や寄託金の関係は次の図のとおりです。
                     GPIF「平成28年度業務概況書」より

GPIFでは平成13年度以降、累積で12.8兆円も国庫に納付しています。

参考
国庫納付と償還の関係
国庫納付は積立金を運用したことによる利益の分配ですが、償還は保有する債券(財投債)に対する払い戻しです。
年金積立金は、当初「国債」と「財投債」で運用されていましたが、「国債」部分が市場運用となり、しょうもない財投債は平成19年度まで引き受けされ、その後は満期償還を迎えるたびに残額が減る状況となっていました。現状として財投債の償還はほぼ終了しています。


GPIFのお財布はいくつあるのか?

3つあります。

年金積立金管理運用独立行政法人法第二十四条(区分経理)にもとづき、「厚生年金勘定」「国民年金勘定」「総合勘定」に区分されています。

結局の所、厚生年金とか国民年金とか言ったところで、お金には色が付いていませんから、全部まとめて総合勘定の中で一緒に運用されています。

しかし厳密に考えると、国民年金被保険者のAさんの保険料、厚生年金被保険者のBさんの保険料が総合勘定145兆円の中に塵のように混ざっているので、お金の入り口と出口だけはもっともらしく「厚生年金勘定」「国民年金勘定」に分けるよう法律は規定しています。

ついでに記せば、利益(損失)の配分はそれぞれの積立金額(元本)に応じて比例配分されています。


積立金の運用では何に投資しているのか?

GPIFのポートフォリオは様々な所にアップされていますから検索してみてください。

参考として国内株式、外国株式の時価総額ベスト10は次のとおりです。

たぶん東芝とかタカタの株式も当然保有していたのではないかと考えられますが、影響が軽微だったのかどうかは29年度の運用成果に注目です。
                                    GPIF「平成28年度業務概況書」より



国民年金、厚生年金の研究(その1

国民年金、厚生年金の研究(その2

国民年金、厚生年金の研究(その3



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