2010年8月23日月曜日

投資の哲学(投資で勝つ方法)(その1)

今回は、約3世紀前、大坂堂島の米相場で「相場の神様」「出羽の天狗」として知られた、酒田の本間家初代本間原光(ほんま もとみつ)の次男、本間 宗久(そうきゅう1724年~1803年)の格言”相場三昧伝”を取り上げます。

酒田の本間家は宗久が当主(3代光丘の代理)のころより日本一の地主(1947年の農地解放まで続く)となり、保有地は30平方キロ(例 5㎞×6㎞)もあったそうです。

その土地の多くは宗久が米相場で得た利益により取得拡大されたものです。
さて、”相場三昧伝”には多くの格言、秘伝、教訓がありますが、私がこの中から読み取った投資の要諦は一言で云って「欲を捨てた徹底した合理性の追求」です。

欲と理性は正反対のようですが、宗久翁は投資に対する姿勢が透徹しており、そのため目先の相場に右往左往することなく、欲に惑うこともなく、すべてが合理的に決断を行っています。

相場が沸き立つとき、一人宗久翁のみが冷静に三位を見極めているのです。

”相場三昧伝”は投資の必勝法というよりも私は尊敬の念を以て、人生哲学の書としての一面もご紹介したいと思います。

さて”相場三昧伝”を読み解くには、当時の米取引の知識が必要です。
堂島の米取引は原則100石(こく)単位で取引が行われていました。
(「端物」と呼ばれる10石単位もあったようです。)

1石が2.5俵(1俵60㎏、1石は150㎏)ですから、100石は250俵(15トン)になります。
(ちなみに1石は当時の1年間に一人が消費する米の量で、1日当たり410グラムも食べていました。)

参考情報ですが、大正時代まではご飯が1日390gぐらい食べられていて、ほぼ1日に必要なほとんどのエネルギーはこのご飯から得られていました。
それが現在では1日平均200g(茶碗3杯)になってしまい、農家も高齢化したため日本のお米文化が危機に瀕しています。
宗久翁も草葉の陰で嘆いておられるのではないでしょうか。

さて当時の投資額を現在の金額に換算してみると、
1石の値段は銀40匁(もんめ)から80匁、飢饉の時で170匁ぐらいです。
10匁が1両ですから、1石50匁(5両)とすると、100石は500両になります。
500両が取引単位ですから、1両を20万円とすると、約1億円にもなります。
(今でもプロの世界での取引単位(1本)は1億円ぐらいではないでしょうか。)

閑話休題
当時の大名は石高で評価されていました。
領地が1000石なら、今では年商10億円の中小企業主となります。
1万石なら、年商100億円の大企業です。
徳川家は旗本知行地を含め700万石と云われていますから、年商は約7兆円ぐらいになります。
現在の会社で比較すると「トヨタ自動車」や「NTT」などが匹敵します。

”相場三昧伝”には価格の変動が「俵」単位で書かれていますが、2俵半(2俵5分)が100石の1%に相当します。
100俵の値上がり(暴騰)だと40%の値上がりとなります。

では本題の相場三昧伝を御案内します。

第1章(三位)
米商いは、踏み出し大切なり。
踏み出し悪しき時は決して手違いになるなり。
又商い進み急ぐべからず、急ぐ時は踏み出し悪しきと同じ。
売買共、今日より外、商い場なしと進み立ち候時、三日待つべし。
是伝なり。
米の通いを考え、天井底の位を考え売買すべし。
是三位の伝なり。
天井値段底値段出ざる内は幾月も見合わせ、図にあたる時を考え、売買すべし。商い急ぐべからずとは天井値段を見ることなり。
天井底を知る時、利運(幸運)にして損なきの理なり。
利運の米は強欲思わず。

意訳
投資は、いつ売買するかが大切である。
相場の悪いときに買ってしまったりすると損をしてしまうことになる。
また、売買は決して急いではならない。
あわてて売買すると、得てして相場の悪いときに買ってしまうものである。
売買とも、今日しかない、今がチャンスとばかり心が急いているときは、ぐっとこらえて3日ぐらい売買を待ちなさい。
これが伝えたいことである。
価格の変動を予測し、天井値段、底値段が見極められたなら売買をしなさい。
これが「三位」という必勝法である。
天井値段、底値段とならなければ、何ヶ月もじっと待ち、思った通りの値段となったときにやっと売買をするのです。
売買を急いではならないと言った理由は、天井値段になるときをじっと待つためである。
天井値段、底値段を見極められたなら、かならず幸運が訪れ、損がでることはけっしてないのである。
そして天井値段、底値段となったなら、「もう少し増やそう」などと欲張ってはならない。

コメント
ここに宗久翁の神髄があります。
三位とは底値、中段、天井を指しています。
素人でも玄人でもチョッとした情報を聞きかじると、即座に行動に出てしまいます。
思った値段を逃しても、はやる心を制し難く、「売買」をしてしまい、後日反省することを繰り返している方も多いのではないでしょうか。
翁は、「踏み出し大切なり」「商い進み急ぐべからず」と諭しています。
「今日より外、商い場なしと進み立ち候時、三日待つべし。」
今日しかないと思ったら「三日待つべし」と云っています。
まさに至言です。
売買は「理性」で行えと言っているのです。

閑話休題
一説には、宗久翁はテクニカル分析の元祖と思われているようですが、日々のチマチマした相場で勝つ方法は一切触れていません。
基本は「マクロ分析」にあると思います。
三位を基本とした「相場観」、勝てるときにしか出動しない「判断力」と、一旦決心したらやり抜く「胆力」、そして「欲」を捨てた「理性」が”相場三昧伝”のテーマだと考えます。

続く

投資の哲学(投資で勝つ方法)(その2