次の中核技術は「暗号通貨の作り方」です。
電子コインの実態は「連続するデジタル署名のチェーン」です。
例 電子コインのイメージ
$1ビットコイン-Aさんの署名-Bさんの署名- - - -Xさんの署名-Yさんの署名-Zさんの署名(ビットコインが使用されるたびにタイムスタンプが記録され、以後同じ所有者がこのコインを二重に使用することができなくなります。)
この電子コインの所有者は最初Aさんであり、多くの所有者を経て、現在はZさんが所有していることが分かります。
デジタル署名などを電子コインのチェーンに追加する際にSHA-256のようなハッシュ関数が利用されています。
参考
SHA-256はNSA(米国家安全保障局)が考案し、2001年にNIST(米国標準技術局)によって連邦情報処理標準の一つとして標準化されています。機能としては、どんな長さの原文からでも256ビットのハッシュ値を算出することができます。
ハッシュ関数というのは、大量のデータを特殊な関数で変換し、一定長さのハッシュ値にしてしまう機能を提供します。
例えば携帯にアプリをダウンロードするときに、正しくダウンロードできたかどうか確認しながらこの処理を行う必要があり、その際にハッシュ関数が使われています。
100メガバイトのデータは1億文字(新書1000冊分)のデータになりますが、これを完全に間違いなくダウンロードするために1文字ずつチェックしていたら、ダウンロードに何日もかかります。
そこでこのデータをハッシュ化し、たった256ビットのデータ(ハッシュ値)にしてしまうことで、ハッシュ値が整合していることが確認できれば100メガバイトのデータが正しくダウンロードできたことが分かります。
注意
ハッシュ値は元のデータを圧縮したものではないので、ハッシュ値からもとのデータを復元することはできません。
参考
1億文字の中のたった1文字が違うだけで、256ビットのハッシュ値はまったく違うデータになってしまいます。つまりハッシュ値が整合すれば100%正しいことが証明されるのです。99%の確率で正しいというような曖昧さはありません。
では暗号通貨はどのように作られているのか?
AさんからBさんに1ビットコインを支払う場合を考えます。
Aさんが1ビットコインをもっていることは世界中のノードにブロックチェーンとして記録されています。
そこでAさんは自分が1ビットコインを手に入れた直前の取引のハッシュと、Bさんから送って貰ったパブリック・キー(公開鍵)をデジタル署名化して電子コイン(デジタル署名のチェーン)の最後にくっつけて、Bさんに転送します。
Bさんは世界中にころがっている取引記録(ブロックチェーン)と比較し、Aさんが送ってくれた電子コインが本物かどうか、二重に使い回されていないかなど過去の所有権を検証し、その電子コインの新たな所有者として秘密鍵で電子署名することになります。(これで1ビットコインがBさんの所有となります。)
参考
ブロックチェーンに記録されている内容はオープンにされていて、この中身を見るためのソフトがWebサイト上で無償公開されています。(http://chainflyer.bitflyer.jp/)
注意
もしBさんが秘密鍵を忘れてしまったら、クレジットカードやパスワードのように再発行してもらう訳にはゆきません。Bさんが秘密鍵を思い出さない限り、もらえるはずのコインは以後だれも保有し使用することができなくなります。
参考
取引の記録とは、AさんやBさんの個人名ではなく、αのアドレスからβのアドレスにコインが送金された事実が分かるだけです。(ですから送金するときの名前がポチからミケに送金としても何の問題もありません。)
注意
ビットコインの取引所やウォレット(個人の財布)サービスを利用するときには、最小限の個人情報が要求されます。
ハッカー対ブロックチェーン
ブロックチェーン技術のすごさは魑魅魍魎(ちみもうりょう)のインターネットの世界に「信頼のプロトコル」を提供したことです。
いわゆる「嘘をつかないネットワーク」が実現したのです。
全世界のコンピュータノードに記録されたブロックチェーンは真実を提供します。
いかなるハッカーもこれを書き換えることはできません。
将来量子コンピューターの出現により公開鍵暗号も解けると言われていますから、そのときにはブロックチェーンもハッキングされるかも知れませんが・・・。
一時Mt.Gox(マウント・ゴックス:取引業者)がサイバー攻撃をうけて、保有するビットコインの大半を失ったと言われましたが、結論として運営会社の代表取締役マルク・カルプレス被告が顧客の預金を着服しただけだったのです。(公判中)
したがって世界的に、ビットコインに対する信頼は微塵もゆらいではいないのです。
また分散型データベースであるビットコインにはどこを探しても個人情報のデータベースはありません。(ポチやミケなどの仮名ばかりになっているかも知れません。)
世間を賑わしている「1000万件の個人情報流出」などという事件は、ブロックチェーンでは起こりえないのです。
これは個人情報を何億人分も抱えるクレジット会社にとってはかなり魅力的かも知れません。
このような優れた特質を有するため、世界中でブロックチェーン技術の応用が進められており、またビットコイン熱もますますヒートアップしています。
参考
なぜハッカーはブロックチェーンに勝てないのか?
ここに10台(A~J)のマイナーがいるとします。計算能力がほぼ同等なので、あるときはAがコインをゲットし、あるときはBがゲットします。そこでJがパワーアップしブロックの中身を書き換えようと(つまり自分がコインを使った記録を消してしまおうと)します。この不正なブロックについてプールーフ・オブ・ワーク(参加者の承認が得られるハッシュ値を探す計算)がうまく解け、めでたくハッシュ値を得ても、そのときにはすでに新たなブロック(Jがコインを使った記録を前提としたブロック)が作られているので、Jは急いでこのブロックも書き換えなければなりません。でもその間にもさらに新たなブロックが作られていますから、Jの計算能力はA~Iまでのマイナーの計算能力を圧倒するだけのパワーが必要です。これはマイナーが増えるほどより困難な仕事になり、現実的には不可能と言えます。したがってJはこつこつとマイニングに励み、小銭を稼ぐのが最も賢い方法なのです。
ビットコイン投資はおすすめか?
ビットコイン投資について、現状その8割は中国で行われています。
その理由は、キャピタルフライト、つまり人民元の暴落に備えて(あるいは腐敗摘発に備えて)、中国国内の資産を国外に移す手段として利用されています。
この状況に対して中国共産党は取り締まりを強化しており、今年に入りその成果が出てきたため、ビットコインは一時暴落しています。
一方中国バブルが崩壊するとビットコインは暴騰するとも言われており、いずれにしろ中国を初めとして世界中で金融不安がある度、またロシアや中国のように取り締まり強化がある度にビットコインは暴騰暴落を繰り返し、価格の変動幅が極めて大きい特質を持っています。
またビットコインの流通量は2100万ビットコインが上限とされているため、「世界はその2100万ビットコインを取り合うだろう」という予想も出ています。
しかしビットコイン開発の中心人物、マイク・ハーン氏も認めているように、ビットコインはあくまで実験であり、現実的に流通しはじめると、様々な問題点が発生し、失敗作だったと言っています。
参考
ビットコインは世界中の人々が使うにはあまりにも小規模なシステムです。1日に何十億件の取引が発生すると、これをマイニングすることは多分不可能でしょう。
マイク・ハーン氏は失敗作であるビットコインはすべて売却し、今は次なる「実験」に踏み出しているようです。
参考
2017年7月11日Bloomberg記事
「ビットコインに分裂リスク、システム巡って内戦」
一方、ビットコインによる実証実験の成果にもとづき、世界中でブロックチェーン技術をベースとした仮想通貨が新に開発され流通し始めています。
元ニューヨーク金融サービス局長でブロックチェーン技術アドバイザーのベンジャミン・ロースキー氏は「今後5年か10年で、金融システムは今とは似ても似つかないものになっているかも知れません。」と言っています。
そうすると10年後にビットコインがメジャーな流通通貨として現在の地位を維持出来ているのかどうかかなり疑問です。
したがって、ビットコインは逐年取り扱える店舗数が増加し、生活上の利便性が向上しているものの、その投機性は極めて大きく、私は個人投資家が投資するには危険すぎると考えます。
ではいつ仮想通貨を持ったら良いのか?
私は、仮想通貨について、投資対象というよりむしろその本質は生活上の利便性にあると考えますから、どこのお店でも使え、いつでも瞬時に決済でき、送金できるようになったときに持ったらよいと思います。
いずれにしろ仮想通貨は金と同様に持っていても利益を生まないので、投機性の強い商品で有り、個人投資家が資産を増やす目的で投資するには不適格と考えます。
仮想通貨はまだ実験段階であり、本格的な普及までには時間を要します。
たぶん今後5年以内に様々な仮想通貨が普及し、その中でメジャーとなりそうなものが出てくるのではないでしょうか。
それまではじっくり待つのがおすすめです。
最後に「信頼のプロトコル」ブロックチェーン技術を発明した中本哲史氏について、Mosaicを開発したマーク・アンドリーセンはこう言っています。
「こいつは天才だ、ノーベル賞に値するぞ」
でも中本哲史氏が存在しているのかどうかは不明です。