日本の公的年金制度の真実がここにあります。
20代、30代の人たちにこのことをぜひ伝えたいと以下の研究報告を書いています。
結論として、日本の公的年金制度は100年後も確実に機能し、あなたたちの生活をしっかりサポートしてくれます。
銀行や保険会社は徒に将来の不安を煽り、個人年金保険などを売ろうとしていますが、それらの商品ははっきり言って国民年金、厚生年金保険と比較し屑としか言えないひどいものばかりです。
日本の公的年金制度は世界に冠たるすばらしい制度です。(医療、介護もまたすばらしい制度です。)
ぜひその内容を理解し、信頼し、国民の義務を果たすことでご自身の将来の生活設計の基盤を確かなものにしてください。
2017/6/4 図の後に説明文を追加
公的年金制度(厚生年金保険及び国民年金)は、とてもややこしいのですが、法律の条文を理解するよりも保険料などの「お金の流れ」を追っかけることで、かなり具体的なイメージが沸き、理解しやすいのではと考え調べてみました。
例えば会社員(2号被保険者)が支払う厚生年金保険料や、自営業者(1号被保険者)などが支払っている国民年金の保険料はどこを通って、受給者に年金として給付されているのか?
年金給付について税金がどのくらい投入されているのか?
また巨額な利益を稼ぎまくっているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用益がどのように年金給付に回っているのか?
・・・このような様々な疑問について「お金の流れ」をつぶさに見ていくことで、「あーそうなっているのか!」と理解が深まるのではないでしょうか。
基礎的データは、厚労省「年金特別会計平成27年度決算」及び日本年金機構の「アニュアルレポート2015」等です。
これを参考に、年金に関わるお金の流れは次のとおりとなっています。
年金特別会計のしくみ
図の説明
○特別会計とはなにか?
毎年3月ごろに国会で予算審議が行われていますが、これは一般会計の予算です。
平成29年度の一般会計の予算額は約97.5兆円となっています。
一般会計の予算とは、政府がその時々の政策を実行するためのお金であり、政策を具体化した事業ごとに予算配分案(政府案)を作成し、国会で審議・成立し、新年度となる4月から予算が執行されます。
これに対して特別会計とは、年金だけに限定した予算、労働保険だけに限定した予算というように「特定の事業」を行うため作られた専用のお財布(勘定)であり、法律で決められた事業について収入と支出を経理しています。
家計に例えると、子供の教育費専用の口座を作り、その口座から学資保険や給食費、塾代などの引き落としを、また児童手当の入金などを集約してしまうのに似ています。
家計では、住居費、食費、通信費、お小遣いなどがごちゃごちゃしていますから、教育費だけの専用の口座を作り切り離すことで、適切に管理できる(分かりやすい)ので便利な方法と言えます。
○年金特別会計のお金の流れ
国民年金及び厚生年金について、保険料などの1年間の収入は合計約36.4兆円です。
これに対して毎年の年金給付額(基礎年金+厚生年金)は合計約45兆円です。
差し引き8.6兆円の赤字となりますが、国民年金法及び厚生年金保険法にもとづき、一般会計(税金)から国庫負担金として約11兆円が年金特別会計に補填されています。
年金特別会計については、保険料の徴収率や年金受給者の増減により毎年赤字額が変動するため、国庫負担金は多少余裕を見て予算化されており、年金特別会計全体として収支決算の結果黒字となれば、そのお金は将来の年金給付に充てるための積立金に繰入られます。
平成27年度の積立額は合計約3.2兆円となっています。
○公的年金は積立方式ではなく賦課方式
保険会社の個人年金は積立方式(個人別の口座に積立)ですが、国民年金及び厚生年金は賦課方式、つまり今年集めた保険料は今年の年金給付に充てられています。
賦課方式のメリットとしては、貯蓄部分がないのでインフレにより受け取る年金額が目減りすることがありません。
参考
毎月1万円を利回り0.5%で30年間積み立てると約387万円(返戻率107.5%)になりますが、インフレ率が平均1.5%(物価が毎年1.5%ずつ値上がりする)とすると、30年後の物価は約1.56倍になっていますから、受け取った387万円の実質的価値は248万円(返戻率69%)しかないのです。(積立方式は利回りがインフレ率よりも高い場合にしかお得にならない。)
賦課方式のデメリットとしては、少子高齢化により保険料を支払う現役世代の人口が減り、年金受給者世代が増加すると、保険料収入が減り、支給する年金額が増加するので、不足する財源の手当が必要となる点です。
現状として前記のとおり一般会計(国庫)から年金特別会計に税金が約11兆円補填されていますが、将来はこの金額を増加せざるを得ないと考えられます。
一方不足する年金財源の手当として、100年安心できる年金システムの看板の元、「年金積立金」が準備されています。
この「年金積立金」は長期にわたり、年金特別会計の収支より黒字が出たときに積み立てて来た貯金であり、2017年3月末現在「年金積立金(GPIF運用分)」は約145兆円もあります。(年金特別会計には、その他にも短期の積立金があり総額では150兆円を超えます。)
ちなみにこの金額を年率3%で運用しながら、100年間で取り崩した場合、毎年約5.6兆円を年金特別会計に納付できます。(1年間の年金給付額が45兆円ですから、5.6兆円はその12%に相当します。)
参考
GPIFの運用が平成18年度から始まりましたが、この間の平均リターンは3.02%、収益額39.6兆円という素晴らしい成績を残しています。(2017年の日本のインフレ率は、IMFの推計では1.01%ですから、インフレ調整後のリターンは2%もあります。一般の保険会社の年金保険では、利回りはこのインフレ率にまったく太刀打ちできませんから屑商品と言えます。)
アホなマスコミは損が出たときしか記事にしませんが、マスコミも厚生年金の被保険者として保険料を払っているのならもう少し真剣に、そして正しい知識を国民に知らしめてもらいたいものです。・・・細部はその3に書く予定です。
以下は平成27年度年金特別会計の収支額です。
(1)収入
保険料収入 27.8兆円(事業主負担13.9兆円、家計負担13.9兆円)
国庫負担 9.2兆円
解散基金徴収金 4.7兆円
実施機関拠出金 2.4兆円
合計 約45.1兆円
被保険者数 約3,681万人
収納率 約98.8%(給与天引きなので未納は少ないのです。)
被保険者一人当たりの保険料(推定額) 約37.8万円(事業主負担額も同額)
(2)支出
厚生年金給付費 23.4兆円(いわゆる厚生年金として給付されます。)
基礎年金勘定への拠出金 17兆円(基礎年金として給付されます。)
実施機関保険給付費交付金 2.4兆円
合計 約42.9兆円
老齢給付 2,797万人
遺族給付 532万人
障害給付 41万人
合計 約3,370万人
厚生年金給付平均額(推定) 23.4兆円÷3,370万人=約69.4万円
(3)年金積立金
剰余金 45.1兆円-42.9兆円=約2.3兆円
27年度積立額 約2.3兆円
積立金の残高 約105兆円(GPIFで運用中)
参考
財務省の「国の財務書類(国の家計簿)」では、年金積立金は将来年金として給付を予定しているお金(負債)として「公的年金預り金」に区分されています。
平成27年度の金額は、
公的年金預り金 合計 123.3兆円
内訳
GPIFへの運用寄託金 106.6兆円
現金・預金 8兆円
未収金、出資金等 8.7兆円
参考
財務書類の概要(資産及び負債の状況)には、年金特別会計の資産額130兆円、負債額125.7兆円、この差額が4.3兆円となっており、125.7兆円は被保険者の資産(つまり責任準備金)で有り、国の資産ではありませんという立場を取っています。国の借金額を膨らませるために保有資産額を圧縮したいのでしょうが、それならそれで、財務省や厚労省は「公的年金預り金」に指一本触れてはならないはずですから、グリーンピアの様なことがないよう、今後とも厳格に経理してください。
参考
民主党政権であった2011年度、第1次補正予算案策定時、基礎年金の財源として本来税金で補填されるべきところを、これを他に流用し、代わりに年金積立金がつまみ食いされた事実ががあります。特別会計のお金が誰のものであろうと「会計」と名がつくものはすべて自分のものと財務省は考えているようです。
2 基礎年金(基礎年金勘定)
(1)収入
厚生年金からの拠出金 17兆円
国民年金からの拠出金 3.2兆円
公務員共済からの拠出金 0.8兆円
積立金からの受入 0.8兆円
合計 約23.3兆円(差額1.5兆円の拠出元は不明)
(2)支出
基礎年金給付費 21兆円
各年金勘定への繰入 1.5兆円
合計 約22.5兆円
老齢給付 3,127万人
障害給付 186万人
遺族給付 10万人
合計 約3,323万人
基礎年金給付平均額(推定) 約63.2万円=21兆円÷3,323万人
(3)年金積立金
剰余金 約8,302億円
27年度積立額 約8,302億円
積立金の残高 約2.4兆円(GPIFで運用中)
3 国民年金(国民年金勘定)
(1)収入
保険料収入 1.5兆円(未納があり本来の金額よりも少ない。)
国庫負担 1.8兆円
基礎年金勘定から受入 0.62兆円
GPIFより受入 0.28兆円
合計 約4.2兆円
H27年度分
納付月数 8,291万月
被保険者数 1,668万人
現年度収納率 約63.4%(改善傾向にあります。)
全額免除者数 576万人
過年度分納付月数 1,019万月
日本年金機構「平成27事業年度業務実績報告書」より
督促状送付件数 43,757件
最終催告状送付件数 84,801件
電話による督促件数 2,129万件
戸別訪問件数 381万件
財産差押件数 7,310件
参考
ついうっかりや、たまたまお金がない場合は督促状などによりしっかりと保険料が集められていますから、最終的な未納者(24ヶ月以上の未納者)は約206万人となっています。この人数は、厚生年金及び国民年金の被保険者総数6,729万人に対して約3%程度であり、一般に言われているように「保険料を払わない人が多いから公的年金制度は破綻する」ことにはなりません。また日本年金機構の取り立ても年々厳しくなっていますから、「未納者」の問題も改善するものと考えられます。
(2)支出
基礎年金勘定への拠出金 3.2兆円
福祉年金等給付費 0.7兆円
年金相談業務費繰入 0.1兆円
合計 約4.1兆円
(3)年金積立金
剰余金 約1,158億円
27年度積立額 約1,158億円
積立金の残高 約7.2兆円(GPIFで運用中)
国民年金、厚生年金の研究(その1)
国民年金、厚生年金の研究(その2)
国民年金、厚生年金の研究(その3)
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