2013年1月19日土曜日
正しい新興国投資の考え方
今トルコ株への投資が人気のようです。
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン(株)によると2012年の運用成績ランキングでベスト5をトルコ株が占め、トップの「オーロラII:トルコ投資ファンド」(野村アセット)はリターンが82.7%だったそうです。
トルコ共和国の歴史は古く、塩野七生氏の「コンスタンティノープルの陥落」ではスルタン・マホメッド二世のオスマン・トルコ帝国が嘗て世界を支配していたローマ帝国を滅ぼした顛末を詳細に描いています。
世界を支配した歴史があり、いまではヨーロッパの一員であるトルコ共和国の未来は明るいかも知れません。
そしてトルコだけでなくBRICsなどの新興国投資をお勧めしている雑誌やアナリストや経済評論家などは枚挙にいとまがありません。
モーニングスターの社長もその著書で新興国は長期で「買い」だと宣言されています。
その理由として、
GDPの世界シェアで新興国が38%にもなり、今後も6~7%の成長が期待できること
新興国は人口ボーナス(生産年齢人口の拡大)が期待できること
先進国は借金で首が回らないこと
だそうです。
私もそのとおりだと思います。
でもだからといって私は素直に新興国投資をお勧めするかというとすこし懐疑的です。
ところでみなさんは「微分」を高校の数学IIで勉強されたかと思います。
たぶんすっかり忘れてしまった方が多いのではないでしょうか。
微分とはある瞬間の変化量です。
例えば、金利5%の定期預金は固定利率で元本が増えますから、変化量(微分係数)は常に5%で一定です。
参考
銀行預金は、一次関数(f(x)=ax+b)として表すことができます。切片のbが元本、傾き(変化の割合)aが利子になります。一次関数は微分すると定数(a 変化の割合)になります。
数学の話が長くなってもつまらないので軌道修正したいと思います。
ジェレミー・シーゲルは「株式投資の未来」の中で「こうした急成長国の銘柄を買いたくなるだろうが、それは、おそらくまちがいだ。」と言っています。
その理由として原文を引用させていただきます。
「高い成長率は、かならずしも高いリターンを意味しない。国外企業であっても、国内企業にあっても、同じことだ。投資家リターンの基本原則にあるとおり、肝心なのは、成長率が期待に対してどうだったかであって、成長率そのものの水準ではない。株式市場のリターンを国別に比較した調査の結果も、はっきりこの説を裏付けている。成長率の信奉者を安心させる結果にはなっていない。」
つまり新興国の成長率が10%なら株価はすでにそのことを織り込み済みで割高となっていますから「お宝」ではないということです。
参考
ロイターBreakingviews「悪魔の金融辞典」より
BRIC:ブリック。「Bloody Ridiculous Investment Concept(ひどくばかげた投資概念」(ファンドマネジャーのピーター・タスカ)の略。
投資家が儲かるのは、期待成長率が上ブレしたとき(変化量が大きくなったとき)であり、成長率が高いこと自体には意味がないのです。
これを数学的に言うと、株式などの価格の変化率(微分係数)が大きくなったとき(これをポジティブ・サプライズといいます。)に儲かるのです。
PER(株価収益率)についても同じ事が言えます。
高PERの株はすでに高成長率を織り込んでいるので、その高成長率をさらに上回る成長が実現されない限り儲かることはありません。
参考
PERが100の場合、株価は1年間に期待できる配当などの利益の100倍、つまり利益の100年分の価格となっていることになります。なぜそのように株価が高くなるのかというと、投資家が期待リターンがすぐに2倍、4倍、10倍になる(10倍になったとすると配当金などにより株価は10年で元が取れる計算)と皮算用しているからです。
新興国の投資話のネタは数限りなくあり、本を売る「話題」としてはおもしろいかも知れませんが、「儲け話」としては眉につばを付けて読む必要があります。
ウォーレン・バフェットはこの真理を深く理解していたので、航空宇宙産業がもてはやされていた頃に見向きもされないコカコーラやジレットなどの日用品(コモディティ)の会社の株を買い占め、平均30%ものリターンを得たのです。
そして2013年、バフェット氏は伝統ある米食品大手HJハインツを買収すると発表し、声明で「強力で持続可能な成長の可能性がある」と述べています。
はたして「成長著しい新興国への投資」と「成熟した産業への投資」どちらが儲かるのか?
賢い投資家は、高い成長率だけを見て判断してはいけないと思います。
参考記事
英エコノミスト誌 2013年6月15日号
ベトナム投資最前線
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