2015年11月8日日曜日

中国の金融システムと理財商品


 今年のFP学会で千葉商科大学の孫智氏から発表された「中国の理財商品の形成と今後の課題」より興味深い内容がありましたので要旨を投稿したいと思います。

この論文を私なりに解釈して書きますが、私は中国国内の事情に暗く、知識も不足し、そして多少の偏見も加わり、論文の内容を正しくお伝えできていないところがあるかも知れませんがご容赦を・・・

参考
孫智氏は中国国内の銀行員であり、千葉商科大学大学院博士課程に留学中

 中国の金融システムは、銀行を中心とする通常のお金の流れの他にシャドーバンキング(影の銀行)があり二重構造となっています。

 現状としてシャドーバンキングは金融仲介手段として重要な役割を担っています。

  なぜシャドーバンキングが発生したのかについては、中国には金利規制制度があり、通常の銀行では国有企業などの優良な企業にしか融資しないので、好景気に沸く国内の中小企業の資金需要を満たすためにできたようです。(銀行の副業みたいなもの。)

参考
 日本でもバブルの頃にノンバンク(Non-bank=銀行以外の金融機関)がありました。
その頃は日本も金利自由化前であり、都市銀行などから見向きもされないような借り手にノンバンクは高金利で貸し出しを行い、その資金の多くは不動産などに投資されていましたから、日中共に似たようなものと言えます。ただし日本では銀行とノンバンクは直接的な関係がありませんが、中国では銀行とシャドーバンクは表の顔と裏の顔の関係となっています。


 表の顔の銀行は投融資の資金を預金として集めますが、裏の顔のシャドーバンクはいわゆる「理財商品(資金運用商品)」により集められています。

つまりお金は、
(公定金利ルート「低利」) 預金 → 銀行 → 国有企業など
(自由金利ルート「高利」) 理財商品 → シャドーバンク → 一般企業など
という流れになっています。

参考
2013年時点で、個人預金額が46.7兆元(約890兆円)、理財商品の規模は40兆元(約760兆円)、不動産投資15.6兆元(約300兆円)。家計では、預貯金やファンド投資は10%以下であり、理財商品が40%以上にも達しており、財産の理財化傾向が著しく進んでいます。しかもそれら理財商品の約77%は元本保証のないものになっています。


こうしたシャドーバンクや理財商品は違法なのかというと、国から特別に許可されており、2004年に銀行理財商品が登場し、当初の2000億元(約3.8兆円)規模から2014年には10兆元(約190兆円)にも急成長し、投資先も多様化の一途をたどっています。

参考
銀行理財商品はいわゆる投資信託とは異なり、孫智氏によると「総合資産運用商品」であり、その概念はファイナンシャル・プランニング(理財)からきていると説明しています。
私の理解では、高利回りを求める顧客のため、銀行が一任勘定により多様な高利回りの商品で運用、つまり日本では今流行のファンドラップ(プライベートバンキング)と同種と言えます。一方銀行理財商品以外は、信託理財商品と呼ばれ、周知のとおり多くの問題点が指摘されています。

参考
各理財商品のシェア(2014年)
信託理財商品 10.91兆元(27.5%)
銀行理財商品 10兆元(25.21%)
証券理財商品 6.07兆元(15.3%)
ファンド理財商品4.3兆元(10.84%)


この銀行理財商品について注目する点は「資金プール」と「資産プール」が分離されていることです。

理財商品を売ることで集められたお金は、一旦銀行の「資金プール」に集められます。その後銀行の一存で資金が「資産プール」に移され(集中運用)、様々な投資先に任意に投資されることとなります。

日本の投資信託では投資家は何に投資しているのか、リスクがどのくらいか知ることができます。(投資資金と投資先が1対1でリンクしており、運用先のリスクについては投資家がこれを負担しています。)

しかし銀行理財商品では、投資家は「高利回りの預金」をすることと同じような感覚であり、分かっていることは利回りだけで、投資資金の使い道については一切分からないようになっています。

したがって銀行理財商品を買った投資家はその商品にリスクがあるとはまったく思っていないことになります。(剛性:実質元本保証と考えられている。)

このため実態として銀行理財商品で集めたお金の運用リスクはすべて銀行が引受していることになります。

孫智氏の報告では、これまで銀行理財商品でデフォルトしたものはないとのことで、利払いは予定どおり行われているようです。

しかし私の推測によるとこの「資金プール」「資産プール」分離モデルでは、個々の理財商品のリスクの算定が困難(1対1の対応がとれていない)であり、資産プールのリスクを資金プールに移すことはできないため、銀行が破綻するときまでリスクが表面化することはないと考えられます。

したがって銀行は一時的に投資家への利払いのため「資金プール」がショートしても自転車操業(回転式発売、繰り替え)により新たなお客からお金を集めカバーするなどが行われているようです。(つまり銀行理財商品についてはバランスシートが作られることがなく、銀行はこのオフバランスされた財布の中で赤字が出ないようやり繰り(言わばどんぶり勘定)していることになります。)

 孫智氏は結論として、理財商品は中国の金利自由化を加速する要因となったが、過渡期の商品で有り、やがては変革しなければならないとしています。

参考
中国人民銀行は10月、利下げ、預金準備率の引き下げを実施するとともに銀行金利の完全自由化も打ち出しました。 → 過渡期の終焉か?

 過渡期の商品とは、理財商品は個々の銀行や証券会社などの社内で自由金利商品として粗製濫造され、規制当局の目が届かない(金融監督回避)ものが多く、上場もされていないため、その信頼性や流動性に問題が多いため、やがては日本の投資信託のように信託財産の分別管理などがしっかり行われるように整備(統一基準による品質向上)されて行くと孫智氏は考えておられるのではないでしょうか。

 その過渡期もすでに終わろうとしており、中国国内の景気が下降傾向となり、銀行金利が完全自由化されると、お金の流れの二重構造も一本化され、日本のようにデフレ&低金利の時代に入って行くと思われます。

そうすると高利回りの理財商品はその使命も終わりますが、これから中小企業(大企業も)の大量倒産や、投資家の資金一斉引き上げなどが生起した場合を想定すると、銀行にとって現状は、抱えきれないほどの巨大なリスクに直面していると考えられます。

 自転車操業は止まってしまったら倒れてしまいます。

 バランスシートを持たないシャドーバンクの金融とはどんぶり勘定で有り、低成長経済の元では極めて不安定な存在に思えます。